改正民法・不動産登記法について

債権・相続に続き民法の物権も改正

 民法は債権と相続が、より現実にフィットするように、これまでの判例を踏まえ改正され施行されたところですが、今度は物権も改正になります。
 土地家屋調査士は不動産に関する権利の明確化に寄与することが使命です。不動産は、登記して初めて他人に不動産の権利(所有権や借地権、地上権など)を主張できるわけで、この使命の意味することは、まさに物権の明確化ということです。
 ということで、土地家屋調査士として、これは知っとかないと…と思い、本※を読んだので、その本を参考に、大胆にまとめてみました(詳しくはお問い合わせください)。

(※改正民法・不動産登記法 松尾弘著 ぎょうせい 令和3年12月)

なんで改正するのだろうか

 今回、物権を改正する目的は、所有者不明土地(建物)の問題が多分にあります。所有者が誰かわからない、所有者が誰かわかってもどこにいるのかわからない土地や建物が増えているのです。
 まず所有者不明の土地(建物)そのものをどうするのか?という問題があります。
 そして、その近隣の人も関連して困ることがあります。例えば自分の家の水道管が隣の空き家を経由している時とか、隣の空き家が不法投棄されているとか、です。こういったことは民法の相隣関係で定められていますが、今の民法は隣の家に人が住んでいることを前提としているので、なかなか困ったことがおこるわけです。今回の改正はこういったことに関わる部分の改正と言えます。
 
 空き家そのものは、所有者がわからないなら国や自治体のものにすれば良いじゃないか、と思うかも知れません。
 しかし、これがそう簡単ではありません。私的所有を認める資本主義国家では、このようなことはあまり想定していなんでしょう。この状態を放置することは、土地や建物の所有権を放棄していいのか、という問題にもつながってきます。私的所有制度を認める資本主義国家では、土地や建物の所有権は経済活動の拠点であり、国家の大前提であるので、そう簡単に放棄を認めるわけにはいきません。少なくとも、この土地いらない、この建物いらないという風に、所有者の意思のみで所有権を放棄されると、他の制度と矛盾したり、いろいろ都合が悪いことがたくさん出てくるのです。
 この点、社会主義国家であるベトナムでも国家に土地を帰属させるには、人民委員会の決定など結構な手続きが必要みたいです。フランスやドイツも放棄の制度はあるものの、一定のルールがあり、土地所有権の放棄は当然に想定されているとは言えないそうです。
 そういうわけで、所有者不明土地を放置するのは、ゆゆしき事態なんだろうと思われます。
 すでに空き家条例や空き家の税制などによって、この問題に対応しているところですが、今回、根本的につっこんで問題に対応するために、所有者不明土地(建物)問題に関係する中心的な法律、民法、不動産登記法をはじめ、その他もろもろを見直し、改正となったわけです。

所有者不明土地(建物)はどれくらいあるのか

 チラシ配りなんかをしてますと、空き家かな?と思うような家があったりします。ピンポンを押しても、しーんとしてて、郵便物が溜まっていて、家の一部が壊れていたり、なんにも荷物がなかったり、草ぼうぼうだったりします。
 そこで、近所の方に「あの家は空き家ですか?」と聞いても「いやーわからないなあ。」ということがよくあります。こういうのも所有者不明と言えなくもないですが、所有者不明とは、実はそういうことではありません。そういう空き家でも、結構な確率で、ちゃんと住んでいたり、子供が管理してたりします。
 建物じゃなくて土地になりますが、データがあります。
 国土交通省の調査によれば、地積調査実施時に不動産登記簿によって所有者等が確認できなかった土地は20.1%(12.5万筆/62.3万筆)あったそうです。そして、地方公共団体が、それなりに追跡調査をしたら、最終的に所有者がわからなかったのは0.41%(0.25万筆)だったそうです。
 この0.41%が問題となる所有者不明土地候補なのです。恐るべし地方公共団体の調査能力。

今回の改正の観点は主に3種類です

そういう所有者不明土地(建物)ですが、今回改正するポイントは以下の3種類になります。

①所有者不明土地(建物)の発生予防
②所有者不明土地(建物)の利用・管理
③所有者不明土地(建物)の解消促進

①所有者不明土地(建物)の発生予防

 まず①について。そもそも所有者不明土地(建物)が発生するのはなんでだろう、と原因を考えると、仕方なく取得するから放置してしまって所有者不明土地(建物)になる、というのがあります。欲しくもないものをもらっても困る!ということです。
 売買であれば、欲しいから買うのであって、放置されることはあまりないでしょう。やむをえない場合もあると思いますが、買う人がいる以上は、所有者不明になることは少ないと思います。
 ではどんな時に、仕方なく取得するかというと、多いのは相続の時です。
 「遠くの山をもらっても…」「何個も家いらないのに…」「固定資産税が…」とか思っても、相続だから受け取らざるを得ない、という状況があることは、なんとなく想像できます。
 こういう場合は、一定の要件のもと国庫帰属の承認申請ができるようになります。(ただし土地のみで、家が建ってたらダメです。また担保権など第3者がらみの権利があったりしてもダメです)
 それ以外に、今回の改正で、相続の3年以内に、正式じゃなくていいから、とりあえず相続人を法務局に報告しなさい、というルールができます。3年以内に、遺産分割も終えて登記するのが一番いいのですが、時間がかかったりするので、相続後の最初の登記を簡略化したわけです。とにかく放置はしないで欲しい、と。これをしないと10万円以下の過料が課されるようになります。そして次のステップで、相続後10年以内には、ちゃんと遺産分割して変更の登記をしよう、という流れになります。この10年を超えるといろいろと損をするようになってます。
 そうは言っても、すでに、ちゃんと変更の登記がされていない土地(建物)はあるわけで、こういうのは、登記官が他の公的機関から変更の情報を入手し、職権や申出によって変更できるようになります。

②所有者不明土地(建物)の利用・管理

 次に②を言いますと、これは民法の相隣関係(そうりんかんけい)あたりの改正が関係します。相隣関係というのは、隣家と1m離れてないなら窓に目隠しをしなさい、とか隣地から水が自然に流れてくるのを妨げるなとか、雨水を隣地に落とす屋根は作るなとか、そういうのを書いてある部分です。
 その中に、木の枝と木の根っこのことが決められてあります。有名な条文ですが、ざっというと、自分の敷地に侵入している枝は持ち主に切ってもらうよう請求することができるのに対し、自分の敷地に侵入している根っこは自ら切ることができるように規定されてます。根っこも枝も、もとを正せば同じ一つの木だったりするのですが、枝と根っこで取扱いが違うのです。
 一説によると、木は高価なものも含まれるから、持ち主以外がむやみやたらと枝を切ってはいけないのだ!という一方、根っこは「まあ見えないし、邪魔なら切っていいんじゃないか」みたいな話があるようですが、私は、根っこは土地と一体化しているので土地のように扱われる、という説を信じたいと思います。(根っこと枝はつながっているんだから、根っこを切ったら枝に影響がありそうな気もしますけど笑)
 とにかくこれまでは、この規定によって、敷地に侵入する邪魔な枝も切ってもらうようお願いするしかありませんでした。そこで今回、民法改正によって、催告したにもかかわらず切除しない時や、隣地が所有者不明土地だったり、急迫の場合だったら、自分で切ってもよくなりました(注意:勝手に切っていいわけではなく、原則は隣人へ枝の切断をお願いしなければなりません)。あと似たようなのに、隣地を通る電気・ガス・水道管の設置や使用についても、隣地が所有者不明土地だったりした時の対処方法が明文化されます。
 また利害関係人の申立により裁判所が、所有者不明土地(建物)管理人を選任して、所有者不明土地(建物)管理命令をする制度や、所有者不明とまではいかなくても、管理が不適当で損害を被る恐れある時に、利害関係人の請求により裁判所が、管理不全土地(建物)管理人を選任して管理不全土地(建物)管理命令処分をする制度ができます。
 管理人がそういう困った土地を処分して、売却なりしたら新しい所有者が発生するわけで、所有者不明土地(建物)の解消という側面もあるので、所有者不明土地(建物)の解消促進が期待できるかもしれません。

③所有者不明土地(建物)の解消促進

 最後に③です。これは主に共有者が不明な場合です。民法の共有関係は、譲渡などの変更行為は共有者全員の同意が必要なんですが、相続なんかで共有のままにしておくと、いつのまにかさらに相続が進んで、どこにいるのかわからなくなる共有者が出てきます。また相続人が多すぎて合意がほぼ不可能といった事態にもなりかねません。
 それでも現行の民法は、譲渡をするときに全員の合意を求めるわけです。共有者が不明なままだと譲渡できませんので塩漬けみたいになります。これでは困るので、共有持分の取得や、譲渡について、裁判所の許可を得てできるようにしました。
 その他の論点としては、共有者からの時効取得は認められるか、という論点もありますが、それらは検討中にとどまっています。

まとめ:土地家屋調査士の出番はあるのか?

 今回の改正で大きく変わったのは、相続登記の義務化、所有者不明土地(建物)管理命令制度、管理不全土地(建物)管理制度あたりだと思われます。
 所有権や相続など権利に関する登記に大きく影響するでしょう。権利に関する登記は司法書士の先生の独占業務なので、土地家屋調査士の出番は少ないのかも知れません。
 しかし不動産を扱う専門家として、依頼主の相談に的確に応え、司法書士の先生を紹介することは必要ですし、相隣関係の知識や取得時効の知識は、不動産を扱う専門職として無くてはなりませんし、そういうお話はトリビア的な要素が多々あったりするので、出番は増えるだろうと思っています。
 所有者不明土地(建物)は個人的問題というより、もはや社会全体で考えるべき問題だと思います。所有者不明土地(建物)を無くそうという雰囲気を作っていくことに、土地家屋調査士も貢献しなくてはならない、と考えております。