建物の定義をめぐって

ある不動産を自分のものとして所有権を主張するためには登記が必要ですが、建物は不動産なので、建物ならどんな建物でも登記できるのでしょうか?逆に言うと、どんな建物だと登記しなければならないのでしょうか?

 

不動産登記規則111条によると、
「建物は屋根および周壁、またはこれに類するものを有し(外気分断性)、土地に定着した構造物であって(定着性)、その目的とする用途に供し得る状態にあるもの(用途性)でなければならない」とあります。
要するに、壁と屋根があって、地面にくっついていて、内部で何かできるもの、ということです。このような建物でなければ不動産登記の対象になりませんので、対象にならない場合の所有権の主張は、占有するとか、別の方法で行わなければなりません。

あえて「建物」にしないことはできるのか?

登記をすれば不動産の存在が公示され一安心なのですが、その一方で、当然ですが、その情報が市町村に行き、固定資産税課税開始の契機になります。
なんでそんな話をするのかと言いますと、ちょっとおもしろい事例があったので紹介します。
ある山に小屋を作って、隠遁生活のように暮らすことを、新しいライフスタイルだとしてブログで発信している方がいました。収入源はそのブログの広告収入だったりするので、何かこう、自己完結・永久機関のような感じがして興味をもちました。

ただ、その方は登記費用や固定資産税を払いたくなかったようで、「建物では無い建物」として小屋を作りました。

え?それなに?って感じですが、確かその方は、定着性に着目し、簡単な束の上に建っているだけなら定着性は無い、と考え、小屋完成後「これは建物では無い」と自分で判断し、登記をせずに住んでいたようです。確かに、登記しなければ建物の存在は公示されないし、市の固定資産税担当者もそんな山の中のことまで常時、把握しているわけではないので、しばらくは平穏に、納税の義務を課す国家権力のことなど忘れて生活していました。ところが、さすがと言いますか、市の固定資産税課が、どこからか小屋の噂を聞きつけ、現物を確認しに現地に来たのです。そして担当者に「これは固定資産税の対象になる建物です」と建物認定をされ固定資産税を請求されてしまうのです。考えてみれば、不動産登記を固定資産税は別の法律なので、未登記だからと言って課税を逃れられるわけではありません。
ただその方は、どうしても固定資産税を払いたくなかったようで、その担当者に「建物じゃ無いようにするには、どうしたらいいのか?」と尋ねたようです。そして返ってきたのが、

①2面の壁を外す②天井の高さは1.5m以下にする

という条件でした。

冒頭の不動産登記規則111条の定義にあてはめるなら、①は外気分断性、②は用途性を損なわせる改造になります。
そして、その方は「わかった」と言って、その改造をします。本末転倒な気がしますが。

そもそも外気分断性、定着性、居住性というのは、家を建てる目的そのものだろう

このように建物じゃない建物というものも作ろうと思えば作れるのでしょうが、居住性はかなり悪いでしょう。
結局この方も、壁が無いと雪が吹き込んで、とても住めたものではないようで、非課税にすることは断念して、2方向外した壁を再度設置していました。

この例からわかることは、外気分断性、定着性、居住性というのは、家の定義というか、家を建てる目的そのもの、だと言うことです。
家を建てる以上、外気分断性、定着性、居住性は必ず満たすはずですから。
不動産登記規則111条の建物の定義は「人にとって建物ってなんだろう」と考えさせられ、なかなか深いなあと思うのですが、みなさんはどう思われますか?

ただ物置や駐車場は、微妙な例がありますので、「この建物は登記義務があるの?」「この建物って登記できるの?」と思った時は、やはり土地家屋調査士に相談することをおすすめします。