お父さんから建物と土地を相続したAさん。特に、建物の使い道も無いのですが、登記記録をそのままにしておくとどうなるのでしょうか?
現時点での建物の登記記録の所有権者に記入されているのはお父さんかも知れません。もしかしたらお父さんもおじいちゃんから建物を相続したまま登記記録を放置してあって、おじいちゃんの名前が登記記録にあるかも知れません。これらの場合、登記記録をそのままにしておくと、登記記録上の所有権者はあくまで、亡くなったお父さん、若しくは亡おじいちゃんということになります。まだ登記記録ではAさんのものではありません。Aさんは、亡お父さんから相続したことを証明して、亡お父さんからの所有権移転登記をして初めて、建物の所有権登記名義人になります。
これをAさんが放置し、そのままAさんが亡くなってしまうと、建物の所有権者は亡お父さん、若しくは亡おじいちゃんのままであり、相続人であるAさんも亡くなった以上、残された人は、誰に建物の話をしたらいいのかわからなくなるのです。(そのため相続登記は義務化されることになりました。)
そこでAさんは、とりあえず所有権登記名義人を自分に移転しておこうと登記記録を調べました。その結果、なんとその建物は登記されていなかったのです。
今は、住宅ローンでお金を借りて建物を建てることが多いため、銀行がローンの抵当権を建物に設定するために建物は必ず登記されています。
しかし、一昔前だと、家は退職前にそれまでの貯金で建てたり、退職金を使って建てたり、現金を自己資金で用意するケースが珍しくないため、銀行が抵当権を設定する必要も無く、当人が登記の必要性を感じていなければ、登記していないことがあるのです。不動産登記法違反ですが、現実にそうなっているのなら仕方ありません。
この場合でも、Aさんは、先に記した通り放置すると建物が誰のものかわからなくなるので、放置するわけにはいきません。では、誰を所有権者として登記するのでしょうか?
Aさんが相続したのだからAさんということになりそうです。
しかし、Aさんは相続によって所有権を取得したのであるから、建物自体はその前からあるわけです。前からあるものを相続するわけです。そうすると、相続する前の建物は誰のものなのか?ということを調べる必要が出てきます。この場合、亡お父さんのものと言えそうです。ただそのお父さんが誰かから譲ってもらった建物なら、さらに遡ってその譲渡人が建物の所有者ということになります。このようにどんどん遡っていくと、最初に建物を建てた人(表題部所有者と言います)が一番、最初の所有者ということになるわけです。
相続した建物が、亡おじいちゃんの建てた建物であるなら、①亡おじいちゃんが所有した事実②亡おじいちゃんから亡お父さんに所有権が移動した事実③亡お父さんからAさんに相続した事実、Aさんは、これら3つのことを証明して初めて登記ができるようになります。
亡おじいちゃんが所有した事実を証明するにはどうしたらいいでしょうか?書類としては、施工工事会社の領収書、建築確認証等があります。しかし昔のことなので、あちこち書類を探してみましたが、書類はありません。
こんな時は、印鑑証明付で、成人2名の証人による所有権証明書というものを代わりに添付します。「嘘は言ってませんから信じてください」というわけです。
ただ、成人2名の証人による所有権証明書を利用する時こそ注意して欲しいのです。
一見、関係者からの申告で所有権証明ができるから便利なように思えますが、慎重に調べないと、伝聞や申し送りを信用して所有権証明をしてしまうと、後で新事実が発覚して、勘違いだったということになりかねません。
せっかく登記手続きをしたのに2度手間になってはたまりません。こういった案件は、現地を見て初めてわかることや、うっかりポイントがよくあるので、専門家である土地家屋調査士にご相談されることをおすすめします。