なんとなくプロっぽい語感
測量と言えばトラバース、トラバースと言えば山登り、というわけで、いきなり強引ですが、測量と山登りの間を取り持つこの言葉を考察してみます。
正直、トラバース測量って土地家屋調査士はあまり口にしないかもしれません。が、使う人は「トラバーの点が…」とか略して言ったりします。1個、鋲を設置するだけでも「これよりトラバース測量により基準点を設置する!」などというと、なんとなくプロっぽいので、土地家屋調査士の測量用語の中でも一目おく存在です。
そもそもトラバースとはなんなのか
トラバースというのは、トラバース・ルートなどのように山登りでも使います。山登りというかハイキング的な感じです。山頂から山頂へ行かずに、斜面づたいに歩くことです。通常の山脈であれば、登山道は山の尾根(稜線)にあり、登山道を歩いていると、いずれ山頂に到着しますが、登山道はそのあと山頂から下り次の山頂へとつながっています。
第一にトラバースとは、このような尾根(稜線)つたいの登山道を歩くのではなく、尾根つたいに歩かずに斜面(山腹)を横へ歩いて、山頂をカットして先へ行く方法です。要するに「横断する」という形になります。また山登り(ハイキング)では、連続して山脈の山から山へ歩くことを「縦走(じゅうそう)」と言いますが、縦に歩くと書くこの縦走もトラバースと言ったりします。
これら2つのトラバースに共通するニュアンスとしては、安全に繋がった道という感じでしょうか。ただこれも程度問題で、落ちたら即死みたいな崖に設置してある、まあまあ危険な廻り道のこともトラバースと言ったりしますので、繋がるってニュアンスが基本にあるのかも知れません。
そういえば英語だと旅行のことをトラベルと言いますが、英語のトラベルも旅行だけじゃなくて、単純に動くこととかも含むので、英語はトラベルやトラバースとか移動に関する言葉の指し示す範囲が、日本語とちょっと違うのかも知れません。
それで測量でトラバースって何?
こんなニュアンスのトラバースという言葉ですが、測量で「トラバースする」というと、移動しながら測量することになります。「トラバース測量」には、主に3つの目的があります。
- 地形図などの骨格図とする
- 一定の地域の面積を求める
- 2点間の距離を測定計算する
まず1は、大まかに点を測っておいてから、細かい点を測るときの大まかな点の事です。河川を測るなら大まかに川岸の形を上流へ向かって測って、それから堤防の上の工作物等の細かいものを測ります。絵を描く時のだいたいの輪郭みたいな感じです。ざっとトラバースしてから細部を測量しようというわけです。
次に2は、精度を確保しながら広い土地の面積を測る時に必要になります。見通しが悪い土地や広い土地だと、直接測定ができないので、確実に面積測定できる範囲を測量し、そこに不足分を測量して足したりして求めます。例えば、池の面積で言います。まず初めに岸に(例えば)6角形の頂点を決めておいて、その頂点を高精度測量し6角形部分の面積を求めます。次に6角形からはみ出た部分を測量・計算し、その面積を6角形の面積に足して求めます。このような段階を踏めばそれなりに精度の高い測量ができます。この核になる図形を決定することも、トラバースになります。
最後に3は、間に障害物があって直接測定できない2点の距離を測る時やめちゃくちゃ離れた2点を測る時のことです。2点間を一本の定規でびしっと当てられれば問題はないのですが、直接測定できない時は、定規を何回も継ぎますよね。そのあと30cm×4回と8cmみたいに計算します。そういうやり方もトラバースの目的になります。A→1→2→Bと直接測って、A→Bを間接的に計算するわけです。
精度が高いと言えるためには
トラバース測量とは、いままで書いた通りですが、精度を確認するための形が3つあります。精度という観点からもトラバースの種類を分類できます。
- 閉合トラバース
始点と終点を閉じて多角形にする。それぞれの辺の角度の合計は多角形の内角の和(180°のn倍)になるので、幾何学的に角度の合計の理論値がわかるので、誤差を調整できる。 - 結合トラバース
始点と終点とそれぞれの後視点の計4点に既知点を使う。既知点の座標値を使うので、幾何学的に間の辺の角度の合計の理論値がわかるので、誤差を調整できる。 - 開放トラバース
始点と終点があるが、その座標値がわからない。また閉合させていない。この場合は角度の合計の理論値が出ないので調整計算はできない。
2は一番、精度が高いと思われますが、既知点の場所によっては時間がかかります。また3は簡易な方法なので手間はかかりませんが、理論値との比較ができないので、点検方法を考える必要があるでしょう。これらのトラバース方法のうち、現場に最適なトラバース方法を採用することが求められます。
もう一つだけ
以上がトラバース測量に関することですが、最後にもう一つだけトラバース測量周辺の用語を紹介します。それは、角度の調整が終わった後、距離の調整をする時です。この調整方法には2つの方法があります。結論だけ言うと、
- コンパス法則
- トランシット法則
の2つです。土地家屋調査士の場合は、1回で長距離を測ることは少なく、距離と角度の誤差は同程度と考えることが多いので、ほとんど全部、コンパス法則になると思います。コンパス法則は閉合差を測定距離に比例して調整します。